ピロティ

薄汚れた橙色の壁
学校の正門の前
出口はいつも開かれているのに
誰も本当の意味で
逃げ出したりしない

電話ボックスに列を作っていたあいつら
その中にいた僕
偽造テレホンカードだけが
真相を知っているのだ

歪んだ汚らわしい欲望が
文学によって正当化される
その少し前の
曇り空に薄紅がさしたような
ほんの少しの胸の疼き

そんなわけで東武東上線の上には
曇り空しかなく
汗の匂いとジバンシィの香りが
ズボンの中で膨れ上がっていた

ああ僕は確かに恋をしていたのだなと思う
その電話線はどこにも繋がっていなかったのだけど
灰色のピロティで
立ち止まらなければならなかった
未来のことなど本当にどうでもよかった
隙あらば出し抜いてやろうとさえ思っていた

野焼きの匂いと金木犀が混じり合って
ラルフローレンのセーターにまとわりつく
踵を引きずる革靴の足音
食堂のチョコラスク
自動販売機の振動音
そしてただ灰色

灰色

僕は大人びた愛など知らぬまま
少年として少女を愛してみたかったのだ

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